はじめに|タンクとは何か?
NBAにおける「タンク(Tanking)」とは、ドラフト上位指名を獲得するために、あえて試合に負けて順位を下げる戦略を指します。リーグのドラフト制度上、成績が悪いほど有望選手を獲得しやすいため、一部のチームが長期的な再建を目的にこの手法を用います。
ただしこの戦略には賛否があり、近年ではリーグもその是非を問題視しています。
ドラフト制度とタンクの関係
NBAでは、プレーオフに進出できなかった14チーム(ロッタリーチーム)を対象に、抽選で上位4つの指名権を決定します。2019年以降はタンク抑制のため、上位3チームの1位指名当選確率がすべて14%に平準化されました。
指名順位の抽選確率(2024-25版)
順位 | 当選確率 |
---|---|
チーム1〜3位 | 14.0% |
チーム4位 | 12.5% |
チーム5位 | 10.5% |
チーム6位 | 9.0% |
チーム7位 | 7.5% |
チーム8位 | 6.0% |
チーム9位以下 | 4.5% 以下 |
2025年ドラフトでのロッタリー結果
直近の2025年NBAドラフトでは、確率を超えたロッタリー結果が話題になりました。
- ダラス・マーベリックス :当選確率1.8%から1位指名権を獲得。クーパー・フラッグを指名し、球団の未来を大きく左右する転機となりました。
- サンアントニオ・スパーズ :当選確率6.0%から2位指名権を獲得。2年連続で上位指名に成功し、将来が楽しみなチームになっています。
このように、ロッタリー制度は単なる確率論ではなく、戦略的判断と運の要素が絡み合うものです。
▶ 関連記事: 2025年NBAドラフト総まとめ|勝者と敗者、注目選手
タンクと再建の違いとは?
項目 | タンク(Tanking) | 再建(Rebuilding) |
---|---|---|
目的 | 上位指名獲得 | 中長期的な戦力強化 |
方法 | 意図的に負ける | ドラフト・育成・トレード活用 |
期間 | 短期(1〜2年) | 長期(3〜5年) |
評価 | 否定的な見方も | 肯定的な再出発 |
タンクは再建の一手段ではあるものの、再建=タンクとは限りません。
近年で最も有名な例:フィラデルフィア・76ers The Process
GMサム・ヒンキーが主導した「The Process(プロセス)」は、
- 主力の放出
- 怪我人を温存
- 連敗を重ねながら若手を指名
という戦略を数年にわたり徹底しました。
ジョエル・エンビードやベン・シモンズなどを獲得し、Trust the Processというフレーズも広まりましたが、優勝には至らず、現在ではシモンズ、バトラーは退団しています。
タンクの副作用とリーグの懸念
競技バランスの崩壊
複数チームが終盤に勝負を放棄すると、試合の緊張感が失われ、ファン離れにつながります。私の友人は贔屓チームがタンク中だった時期、NBAへの期待を失い、大学バスケを中心に観戦していました。「次のドラフトで有望選手は誰か」という視点で、やや複雑な気持ちで観戦を楽しんでいたようです。
選手やスタッフの士気低下
「負けるためにプレーする」状況は、プロ意識の低下や選手・コーチの流出につながります。PJワシントンも、マーベリックスに移籍した際に「ホーネッツには勝つ文化がなかった」と語り、話題になりました。
リーグブランドへの悪影響
スター選手の温存(ロードマネジメント)は、観客や視聴者にとって大きな不満点に。旅行先で観戦したのに主力が出ていない…なんてことも。
NBAのタンク抑止策と罰則
主力温存への罰金制度
- 全米放送試合で健康なスター選手を欠場した場合、最大100万ドルの罰金
- オールNBA選手などは特に厳しく制限され、10万〜100万ドル超の罰金事例が複数発生
- 2023-24シーズン以降、ルールがより厳格化
ゴールデンステート・ウォリアーズやロサンゼルス・クリッパーズなどが、全米放送など注目度の高い試合で健康な主力を休ませた際、10万ドル以上の罰金が科された事例が複数あります。
現行ルールと指名順位の新ルール(CBA 2024-25)
- セカンドエプロン超過などの財務違反があると「フローズンピック(指名権凍結)」の対象に
- 条件を満たさない場合は指名順位が自動的に1巡目末尾に移動
出典: NBA CBA 101(2024-25) 、NBA憲章および細則(2024年版)
ダラス・マーベリックス(2023年)の罰金例
プレーイン進出の可能性が残る中、カイリー・アービングやルカ・ドンチッチを休ませて敗戦。
NBAは「競技の誠実性を損なう」として75万ドルの罰金を科しました。
しかし結果的に、わずか3.0%の確率で保持した10位指名権を維持し、2023年ドラフトで
指名権の活用に成功。
→ トレードダウンでデレック・ライブリーⅡを獲得、ベルターンス放出と補強の足がかりに。
まとめ:タンクは戦略か?それとも問題か?
タンクは短期的には効果的な再建戦略である一方、リーグの競争性やファンの熱狂を損なう副作用もあります。そのためNBAは、制度や罰則を通じてそのバランス調整を試みています。
日本のBリーグにおけるドラフト指名ルールも、2026年シーズンからウェーバー方式が本格導入される予定です( 出典 )。
応援チームが再建中なら将来の有望選手に期待をしてみると、シーズン中やオフの楽しみ方が一層深まるでしょう。